稀少な狩猟用小口径ライフル ~葛ラメンバーの愛銃紹介~
葛飾ライフル古参のF・Kさんが使っている古めかしいボルトアクションライフルが、以前から気になっていました。東ラの普及大会などで目にすることがあるのですが、他のみんなが大きなストックに極太のバレルを載せ、微調整できるマイクロサイトで狙いを付けているのに対し、細身のバレル、小柄なストック、そして昔の軍用銃に付いていたみたいなタンジェントサイトの組み合わせは、とても新鮮に映ります。
実は、これは元は狩猟用として許可を得たもの。現在は22LRを撃つスモールボア(SB)ライフルでの狩猟は法律により禁止されているため、このライフルを使っての狩猟をすることはできません。新たにこういったタイプの銃を所持しようとしても、「使用目的が無い」という理由で許可にならないのです。この銃はまさに一代限りの許可。F・Kさんが手放したら、もう誰も所持できない稀少な銃なのです。
今回、葛飾ライフルのSB記録会が千葉で行われた際に、この狩猟用小口径ライフルについていろいろお聞きし、さらに細かい写真も撮影させていただきましたので、せっかくなのでここで紹介したいと思います。これを見て「欲しい!」と思っても日本ではもう所持できないわけで、誰が得するのソレって記事になってしまいますが、まあ実銃リポート記事ってのは基本的にそういうものですので……。
ソ連製のボルトアクションライフル「TOZ-17」
この銃の名前は「TOZ-17」。Wikipediaによると、1950年代にソ連(今のロシア)のトゥーラ武器工場で作られたものなのだそうです。もちろん軍用ではありません。スポーツ射撃や狩猟目的の、純然たる民間用の銃器です。
木製のストックに、鉄で作られた機関部が載せられているという、いかにも「銃!」って感じのスタイルをした銃ですね。日本語のWikipediaだと「銃身にはアルマイト処理が施されている」なんて書いてあって「え?アルミ製の銃身?」とか思っちゃいますがそんなわけはなく、もちろん銃身も鉄製です。これはおそらく英語のWikipediaにある「anodized」を訳するときに誰かが余計な気を利かせてアルマイトって訳しちゃったんだと思います。
※多分、英文wikiの執筆者、「酸化皮膜」を表す一般名詞みたいな気持ちでanodizedって書いたんでしょうね。
いかにもソ連製の銃らしく、メカニズムはシンプルそのもの。大口径ライフルのようにボルト先端や根本にロッキングラグがあってそれがバレルと噛み合って……なんてことはなく、ボルトの側方に飛び出したハンドルを下に倒すとレシーバーにある溝に入り込み、それで閉鎖されたことになるようです。上の側面写真ではボルトは外した状態ですが、射撃しているところの写真を見るとボルトが22口径のライフルとしては分不相応なくらいに太くて大きいのがわかります。
太くて大きいといえば、ボルトだけではなくファイアリングピンにも注目です。射撃競技用のライフルだとファイアリングピンは細くて小さいものを、強いスプリングで瞬時に短い距離だけ前進させてリム(雷管)を叩くようになっています。引き金を引いてから弾が出るまでのタイムラグを少しでも短くするためと、ファイアリングピンが前進することによって生じる振動を減らすための工夫です。
ですがこのソ連製の銃のファイアリングピンは、むしろファイアリング「ブロック」といったほうがいいんじゃないかというくらいに大きなものです。左写真は上が撃つ前、下が撃った直後ですが、ボルト後部がまるまる前進しているのがわかります。その前進スピードもけっして早いものではなく、目で見て動きが追えるくらいのもっさりしたものです。引き金を引く音を「カチッ」、弾が発射される音を「パン」と表現するなら、「カパン」ってふうに音が別れて聞こえるくらいです(競技銃ならそんなことはありません。引き金を引いたその瞬間に弾は発射されます)。
この大きくて重いファイアリングピンは、Wikipediaによると信頼性の向上に寄与しているのだそうです。そりゃそうでしょう、これだけの重いものでガッチリたたきつけられたら、少々粗悪な弾であっても問答無用で発火されるんじゃないかと思います。大きなボルトと重いファイアリングピンが生み出す十分に強い力で雷管を叩くことによって、確実に発火させる……。いかにもソ連製らしい性格の銃じゃありませんか。
撃ったあとの空薬莢を引き出すためのエキストラクターも、通常は1本のところをこのTOZ-17は2本も付いていて、確実に薬莢を排出できるのだとか。さすがに人様の銃のボルトをお外で取り出して写真を撮らせてもらうとか恐れ多いので写真はなし……
と思ったら、画像検索しただけで海外の銃砲店がパーツ販売しているところがヒットしました。うん、たしかにエキストラクターが2本、左右に生えているのが見えます。
Photo:FISHER FIREARMS
所持者であるF・Kさんによると、昭和50年くらいまでは狩猟に小口径ライフルを使うことが合法だったため、この銃は狩猟用として購入したものだとのことです。鳥も獲ろうと思えば穫れたけれど、メインとしてはやはりウサギ。「空気銃と違って一発で死ぬから、良く穫れたものだった」とのこと。なんでも、シカをしとめたこともあるのだとか。「でも、クマは無理だねえ……イノシシも無理だ」。
小口径ライフルを狩猟用として使うことが禁止された理由ってのは諸説あります。一説には、カモなんかが水辺に集まっているところを遠距離から狙撃すると、発射音が小さいので撃たれても(弾が当たらなかった他の)カモが飛び立たず、いくらでも撃ち放題になり、あまりにも獲れ過ぎるので散弾銃ハンターからクレームが来てNGになった、なんて話も聞きます。いちおう公式には、散弾銃に比べると弾が遠くに飛ぶので危険だから、というのが理由になっています。散弾銃は、鳥撃ち用の小さい粒のものなら200mも離れればほとんど危険はありませんが、小口径ライフルの弾は外れて飛んでいった弾が1kmくらい先でも十分に殺傷能力を保持しているそうですから。
重量は約1.3kg、ペットボトル飲料より軽い
元は狩猟用ライフルということで、箱型弾倉を使用できるようになっています。狩猟に使っていたころには5発入りの弾倉、22LRですから100円ライターくらいの小さい弾倉を使っていたとのことですが、今は標的射撃用としての所持なのでもう弾倉は処分してしまい、撃つ時は排莢口から直接指で1発ずつ装填しているとのこと。
レシーバー部分。銃身の後ろには22LRの弾がちょうど入る大きさの穴が開いているので、射撃時にはそこに直接指で弾を差し込み、ボルトを前進させてハンドルを下におろして閉鎖。撃ったらハンドルを上げてボルトを後退させて空薬莢を排出し、次の弾はまた指で差し込む……という形になります。
銃の写真というとお約束なのが刻印類。「MADE in USSR」とか書かれた刻印がどっかにあるんじゃないかと探したのですがどこにも見当たりません。レシーバーの上部、ちょうど前側のマウントベースが隠しているあたりに刻印類があるんじゃないかと思われます。
レシーバーの上には、スコープを取り付けるためのマウントベースが前後に2つネジどめされています。狩猟に使っていたころはここにスコープをマウントして撃つこともあったが、今は使っておらず、オープンサイト(アイアンサイト)だけで撃っているとのことです。「スコープ載せなくても、ちゃんと撃てばちゃんと当たるからねえ」とのこと。
そのオープンサイトというのがコレ。第二次大戦のころの軍用銃なんかによく付いていた、タンジェントサイトって呼ばれているタイプのものですね。円筒形の部品を左右から抑えるとロックが解除され、前方にすべらせるとリアサイトが上昇し、より遠くを撃てるようになるというものです。目盛りには数字が書かれていて、目標までの距離をその数字に合わせることで遠距離での正しい照準を可能にするもの。数字は25から250まで、25刻みで書かれています。単位はおそらくメートルだと思われます……ソ連はアメリカと違ってちゃんとメートル法使いますので。形状はUノッチのようですね。
フロントサイトはこんな感じ。薄いブレード状で、保護のためのリングもなにも付いていません。このフロントサイトブレードの「凸」と、リアのタンジェントサイトの「凹」と合わせて狙う、ピストルとかと同じ狙い方で標的を撃つわけです。現代の競技用ライフルでは、標的の黒丸とフロントサイトのリング、そしてリアサイトの穴を同心円状に重ね合わせることで狙います。それに比べると格段に照準合わせの難易度は高いのですが、F・Kさんはほとんどの弾着を黒丸内には収めていました。
ストックは、さすがに使い込んでいて傷だらけです。スリングスイベル(ハンドストップ)の取り付けや取り外しも、木ネジを直接ストックにグリグリとねじ込み、外すときは毎回それをグリグリと回して(木くずをまき散らしながら)外すという極めて豪快な方法。やっていくうちにどんどん穴が広がっていくんじゃないかと見ていて怖くなります……。
とはいえ、木の質とかチェッカリングの巧みさには目を引かれます。さすがに半世紀前の銃だけあって、今のスタンプで大量生産しちゃうチェッカリングとは一味違いますね。
半世紀以上も昔に作られた狩猟用ライフルではありますが、とにかく壊れない、頑丈、確実に撃てるというところが魅力らしく、検索してみると世界中にけっこう愛用者が大勢いるようです。ボルトやファイアリング、トリガー、サイト、ストックといった部品類も普通に売ってます。銃本体も、程度や仕様によって差はありますが150~250ドルといった価格帯で「ちゃんと撃てる」ものが売ってるようです。もし法的に新規で所持できる国または地域に住んでいたら、お手軽でお気楽な射撃用途に一つ買ってみるか、みたいな気になれる銃ですね。
厳しくなる一方の銃刀法ですが、こうやって法改正の狭間を生き残ってきた昔の銃なんてものも、射撃大会に行くと見ることができます。カリカリの競技銃の間に、小柄な狩猟銃がハデな発砲音を立ててると、なんか雰囲気が和むというか楽しい気分になってきます。F・Kさんにはぜひ長生きして、この銃を射場で見かけて驚く若きシューターを一人でも増やしていただければと思います。
ono | 2014.11.02 17:31
短時間の取材で下が、まるで専門誌のような内容。これからも、珍しい記事の紹介をよろしく!!
IIzuka | 2014.11.02 17:41
凄く詳しく書いてありました。試合中は他の人の銃など
見てる余裕などありませんが、各々の銃には、それを持つ人
と同じだけの歴史があるんですね。
こんどは私のウィンチェスター94を紹介して下さい。
Kawamura | 2014.11.02 22:35
普段から拝見している銃ですが、このような歴史があるなんて、驚くと同時に羨ましく思いました。自分の愛銃は競技専用銃なので、せいぜい銃検の時におまわりさんが「おっ!」とチョッピリ反応するくらい・・・。
他のメンバーはどのような銃を持っているのでしょうか?
この記事を拝見して、ふとそう思いました。
読み応えのある、いい記事をありがとうございます。
是非、シリーズ化して欲しいですね!